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「お寺の装飾美」と「ヨーロッパ文化」が融合したコンポート皿ができるまで | renacnatta STORY

お寺に足を踏み入れた時、そこかしこに広がる繊細な装飾や、美術館のような彫刻に思わず目を奪われた……そんな経験はありませんか。そして、この美しき仕事は一体どんな人の手によって施されているのでしょうか。

renacnatta(レナクナッタ)は、この寺院の荘厳な雰囲気を作り出す担い手のひとり「宮殿師(くうでんし)」に光を当てた、新しいアイテムをリリースします。

Kuuden Collection

宮殿師とは、寺院の御本尊を安置する「宮殿(くうでん)」や「須弥壇(しゅみだん)」のほか、「神輿(みこし)」をはじめとした神仏具など、人々の信仰の“核”となる部分が納められた空間の装飾を担う職人たちのこと。

そんな彼らと共につくったのは、日本から遠く離れたヨーロッパで誕生したコンポート皿。「お寺の装飾美」と「ヨーロッパの文化」のふたつが融合した、新たなアイテムとなっています。

今回コンポート皿をレナクナッタと一緒に制作してくださったのは、若き宮殿師で、京都のウナテ工房二代目である宇奈手 正志さん。

偶然の出逢いからその技術力に惚れ込んだレナクナッタの大河内 愛加と、大河内の審美眼に刺激を受けながら制作してくださったという宇奈手さんによる対談を行いました。

お寺の装飾美とヨーロッパの文化が融合したコンポート皿はなぜ生まれたのか、そして宮殿師の技術とは一体どのようなものなのか。二人の話し合いから、神聖な空間のスピリットが吹き込まれたコンポート皿誕生の背景にあるストーリーを感じていただければと思います。


工房で大河内が目にした、受け継がれるかたちと職人技

── 「宮殿師」というお仕事を聞き慣れない方も多いと思うのですが、神社仏閣の建築を行う「宮大工」とも異なるのでしょうか?

宇奈手さん(以下敬称略):元々は宮大工が宮殿も建てていたのですが、明治時代の京都・東本願寺の再建後、宮大工の仕事が増えて手が回らなくなり、宮殿師という専門の仕事が生まれたと言われています。

宮殿師の仕事には図面というものがないので、師匠から代々かたちを受け継ぎながら、古くから伝わる装飾を自分の腕で再現していくことになります。

私はまだ歴15年の若手ですが、父について修行を始めた時は、ひたすら刃物研ぎをしていましたね。木材がガタガタにならないよう滑らかな線状に彫れるようになるまでが大変でした。


宇奈手さんの事務所にある東本願寺派の御宮殿

大河内:ウナテ工房さんとの出逢いは、これまでのレナクナッタとは違った形で「文化を纏う」アイテムがつくれないかと思い、まだ関わったことのない分野の職人さんを探していたのがきっかけでした。

とはいえ、当初はYakihaku Collectionのような、何か伝統的な装飾を施すための「土台」となる木工を担当してもらう場所として紹介してもらい、宇奈手さんの元を訪れたんです。ところが、実際につくっているものを見て「土台じゃもったいない」と感じて。

大河内:そこで、当初は予定していなかった“手彫りの木地が主役となるアイテム”づくりをご一緒できないかと相談させてもらったんですよね。

初めてウナテ工房さんにお邪魔したときに驚いたのを今も覚えています。工房のあちこちに、お寺に参拝したときに目にするような形に彫られた木材たちがゴロゴロと置いてあって。

宇奈手:擬宝珠(ぎぼし)ですね。これは、橋の欄干や寺院の階段などの先端部分に使われるものです。今回のコンポート皿にも「逆さ蓮」という擬宝珠の一種をモチーフとして取り入れています。その名の通り、蓮華を逆さにしたような造形が特徴です。

大河内:最初に工房で見たときははこれが擬宝珠だとか、そういう知識も何もありませんでした。ただ、ひと目で手彫りならではの美しさと繊細さに惹かれました。宮殿の中でよく使われる重要なパーツということを知り「これを取り入れたい」と思ったんです。


仏教の「逆さ蓮」が現代の暮らしに馴染む造形に行き着くまで

── 今回のコンポート皿をつくる過程で印象的だったことはありますか?

大河内:まず、宇奈手さんの作業の早さに驚きました。これまでレナクナッタではアパレルアイテムを主に展開してきたこともあり、織りであったり、縫製であったりと、複数の職人さんの元を経てサンプルが出来上がっていくのが普通。

でも、今回はすべての工程がウナテ工房さんで成立するので、「ここをもっとこんな風に変えてほしい」とお伝えしたら、翌日くらいに「やってみました!」と写真を送ってくださったり。

大河内:もちろん宇奈手さんのお人柄と技術力もあると思うのですが、職人である宇奈手さんと一対一でやり取りできたのは、すごくやりやすかったです。

宇奈手:先ほどもお伝えした通り、宮殿師の仕事には図面がない代わりに、絵でも何でも「思い描いた形はだいたいつくることができる」んですよね。

本業の宮殿づくりでは「杖」と「型」を用いるのですが、杖は宮殿の間口、奥行き、高さなどが書き込まれている長さ2mほどの道具です。型は、屋根などの曲線や重なり合う所の角度などが書き込まれている道具。この2つで宮殿の寸法や形状ができあがり、、それ以外の形はほとんど全てが手彫りになります。

宇奈手:でも、コンポート皿は普段つくっているものに比べてかなり小さいので杖も型も使わず、手彫りも普段の仕事よりもずっと細かい作業です。なので彫っていく作業も、結構な挑戦でした。

大河内:実際に寺院の柱などに施す「逆さ蓮」よりも、かなり細かく彫ってもらっていますもんね。

宇奈手:サンプルとして彫ったものを大河内さんに見てもらう度に、「もっと細くしてほしい」と言われて「もっとですか?」とびっくりしていました(笑)。

大河内:いつも難なく対応いただいている印象でしたが、内心驚かれていたんですね(笑)。でも、こうした細かい修正にも応じていただいたおかげで、他にはないデザインのコンポート皿になったと思っています。仏教の凛とした造形美を感じさせながらも、洋風の雰囲気にも自然に馴染むんです。

宇奈手:小さいながらも宮殿の特徴である曲線美にこだわり、大河内さんとのやり取りの末にできたコンポート皿は、自分たちだけでは思いもつかないような洗練されたデザインに仕上がったと思っています。さすがだなというか。

大河内:ありがとうございます。ものづくりをご一緒させていただくときは、私もお客様と同じでその技術について何も知らない状態から入るので、まずは工房にお邪魔してお話を伺うなど、学ばせてもらうのがスタートだと思っています。

そうやって伝統工芸に対する尊敬と愛情を持ちながら、現代の暮らしに「文化を纏わせる」にはどんなものをどんなデザインでお届けするのがいいか考え、職人さんの技術力を活かしたレナクナッタらしいアイテムを生み出していきたいなと。


コンポート皿をきっかけに、宮殿の職人技を照らし出していく

── 世の中ではさまざまな伝統工芸が存続の危機に面していると聞きますが、宮殿師の業界はどのような状況なのでしょうか?

宇奈手:日本全国に神社仏閣はたくさんありますが、実際には空き家のようになっていて、機能していない所も少なくありません。加えて、コロナ禍で我々の仕事も減ってきていて。それに、宮殿師ってあまり表に出ない職種じゃないですか。例えば京都なら西陣織とかであれば、華やかだし、聞いたことがある人も多いとは思うんですが……。

なので、宮殿に限らず、自分たちでも色々な木工の商品をつくって販売しようとしはじめているところです。

大河内:だからこそレナクナッタでも、「宮殿師」という存在を前面に押し出すようなものづくりや発信をしていきたいと思っています。

宮殿、逆さ蓮、須弥壇など、普通に生活をしていたらまず触れない言葉たちですが、このコンポート皿を知ってしまったら、もう頭の中に刷り込まれてしまうと思います。そうすると次にお寺を訪れた際、これまでと見方が少し変わってくるはずです。

大河内:実際、私自身もそうだったんです。宇奈手さんに出逢ってから、お寺に行った時の目線が変わって、「あそこも宮殿師さんの技術なのかな」と考えるようになりました。

宇奈手:ありがとうございます。そうやって知ってもらえるきっかけが増えると、励みになります。


大河内 愛加より「宮殿の要素とヨーロッパの文化が融合したアイテムを通して、“伝統”を暮らしに取り入れる」

新しい職人さんに出会うたびに思います。「こんな人たちがいたのか」と。素晴らしい技術を持ちながらも斜陽になっている産業を見ると一緒に何かをつくって、たくさんの人にこれを知ってもらいたい、と思ってしまうのです。

今回はホームアイテムを充実させていこうと思っていたタイミングと重なったのもあり、出会ってから半年ほどの時間をかけて、コンポート皿が完成しました。

何度も工房に足を運んで、工房中にある宮殿や神輿を眺め、他の木工職人さんではできない宮殿師だからこそできるデザインは何かを模索しました。

あるとき、無造作に置かれた逆さ蓮、土台、その他のパーツを積み木のように重ねてみたらコンポート皿が見えてきました。コンポート皿は元々ヨーロッパの文化で生まれたものですが、その雰囲気をまとわせつつ、宮殿の要素をふんだんに取り入れたデザインにすればレナクナッタらしいアイテムが生まれるのではと思いました。

実際、逆さ蓮だけでなく土台の部分は須弥壇(しゅみだん)といわれる仏像を安置する壇をモチーフにしています。


実物大の須弥壇を背景に撮影したコンポート皿

須弥壇は、波打つような曲線と細かな角の並びが特徴的です。上に2段重なるお皿にも宇奈手さんが得意とする曲線をつけてもらい、真横から見た時のシルエットにこだわっています。

コンポート皿のパーツの構成が決まった後は、納得のいくプロポーションになるまで微調整を何度も重ねてもらいました。(宇奈手さんを大分困らせてしまったようですが…)

結果、実際の宮殿に見られる伝統的な形を随所に取り入れつつも、「伝統」を押し付けない自然なデザインに仕上がり、私自身とても満足しています。私の度重なるお願いに「やってみます!」と快く対応してくれた宇奈手さんに本当に感謝です。

こうして出来上がった、宮殿の要素とヨーロッパの文化が融合したコンポート皿、ぜひ暮らしに取り入れていただけたら嬉しいです。また、このコンポート皿を知ることで、お寺の楽しみ方もきっと変わるはず。レナクナッタは、そんな新たな知見の入口になるようなブランドとして、これからも「文化」をお届けしていきます。

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取材・執筆:山越 栞
撮影:小黒 恵太朗
取材・編集:吉田 恵理

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